2014年3月14日に開催されました国際シンポジウム『出生前診断とその国際動向』では、シンポジウム直前に各メディアの皆様とプレスカンファレンスを開かせていただきました。出生前診断をめぐり、国際的な視野からの活発な質疑応答が行われました。
司会 それではお時間になりましたので、プレスカンファレンスを始めさせていただいてよろしいでしょうか?今回のプレスカンファレンスは記者発表というものではなく、せっかく海外から出生前診断に関する造詣の深い先生たちがいらっしゃっているということで、何かご質問があれば受けましょうということで設定させていただきました。
シンポジウム本番で質疑応答する時間がほとんどないので、ここで疑問をぶつけていただければと思います。逐次通訳でやらせていただきます。時間が1時間と限られていますので、どの先生にどういう質問かということを明確にしていただいて、シンプルにやっていただければと思います。ご協力よろしくお願いいたします。
簡単にご紹介させていただきます。向かって一番左の奥から2番目の先生がマーク・エバンス先生です。そのお隣がドミニク・プランタズ先生、そのお隣がツアングシット・ワタガナラ先生です。オブザーバーとして千葉敏雄先生も同席させていただいていますが、今回の質問は海外からの3先生に限らせていただきます。よろしくお願いいたします。
何かございましたら、挙手をお願いします。
記者A 日本語で質問させていただきます。せっかく遠方から3先生が海外から来ていらっしゃるので、それぞれの国において、「NIPT(注 non-invasive prenatal genetic testing:無侵襲的出生前遺伝学的検査、最近メディアでは新型出生前診断とされることが多い)」はどのぐらい行われているか、その状況を教えていただきたいと思っています。
Drワタガナラ それではまずタイの状況から説明したいと思います。タイの医療は、政府で保険をかけているシステムと民間のベースと2つに分かれています。そして、NIPTの場合にはいずれの保険でもカバーされませんので、したがって受ける方はすべて自己負担しなければいけないのが現状です。
これはアメリカとは状況が違います。アメリカですとNIPTは一部、公的保険、民間保険などで負担されていますが、タイではそうではありません。NIPTはもちろんすべての女性に提供できる状態ではありますが、多くのNIPTは民間の病院で行われているのが現状です。
しかし、実際にNIPTを一番いい形で最適なやり方で提供するためには、やはり私としては、遺伝カウンセラーあるいは医師にしても、その検査を行う医療者が遺伝カウンセリングのできる資格を持っている人物が行うことが必要だと考えています。
Drエバンス アメリカでは簡単なお答えはできません。というのも、ヘルスケアのシステムといっても何百も異なるものが存在しているからです。アメリカの各州ではそれぞれ州による規則、それから規制も違います。したがって保険の制度も違うわけです。また、それに加えて民間保険も何十と存在しています。したがって今のご質問については簡単なお答えはできないということになります。
ただ、あくまでも「Best Guess(有力な推測)」というかたちでのお答えで聞いていただきたい数字があります。それは米国では現在、年間の出産数が400万です。そして会社がNIPSの数を公表していないのでわからないのですが、その中でおそらく10万件ぐらいがNIPSを受けていると考えられます。
私はNIPT ではなくNIPSと言いました。Tではなくて、Sを使います。すなわち、このSはスクリーニングであり、(TEST=検査ではなく)非侵襲的出生前スクリーニングの略だからです。
なぜスクリーニングかというと、あくまでもこれはスクリーニングにすぎず、確定診断はできないものであって、確率を評価しないとわからないものだからです。あくまでも確定診断をするものではありません。
こういう状態で2つ問題が起こっています。まず第1に、昔からある出生前検査である生化学的な検査や「NT(胎児の項部浮腫:nuchal translucency)」の検査などは、やはりそのやり方も進歩しています。そしてまた、それと全く逆の診断法である「マイクロアレイ(遺伝子発現差異解析)」がありますが、マイクロアレイについてもますますその技術は進化しています。しかし、ここでの問題はこのマイクロアレイにかけるためのサンプルをどこから採るかということで、これはやはり羊水穿刺あるいは「CVS(絨毛検査:chorionic villi sampling)」に頼る必要があります。
さて、このような状況で残念なことがあります。それはあまりにも多くの医師、そしてあまりにも多くの患者さんがこの出世前診断で発見されるのはダウン症候群であると誤解していることです。正確にはそうではありません。患者さんでもダウン症候群を心配しているのではなくて、赤ちゃんに異常がないことを確認したいわけです。しかし、その意味で異常という言葉ではなくて、そのかわりに知っている言葉であるダウン症候群を使っているということがあります。ここからいろいろな誤解が起こるのは残念なことだと思っています。
Drプランタズ フランスは単一の医療制度の下で約6000万人の人口に対して医療を提供しています。年間の出産数が70万人、そのうちおそらく出生前のスクリーニングを受けるのは4万人ぐらいであると思われますが、だいたいは画像診断によるものです。NIPTの件数は存じ上げません。
司会 他にございますでしょうか。
記者B 先ほどの記者の方の質問と同様に3人の先生にお聞きしたいのですが、NIPT以前の羊水検査やCVS、母体血清マーカーなど、そういった検査をどのくらいの方が受けてきたかということを教えていただければと思います。
Drエバンス さて、私ももう1回推定値で物を言うことになります。アメリカでは申し上げたように出産数が400万で、おそらくその内の65%が何らかのかたちでのスクリーニングを受けていると考えられます。もちろん「セカンドトライメスター(妊娠第2期、15週~28週)」で行う人もいるかもしれません。その場合には「クアトロスクリーニング(母体血清マーカー)」になるのですが、これはどちらかというと遅くまでスクリーニングをしに来なかったので、仕方ないのでやったということです。しかし、そうではなくて、もっと早い段階でのスクリーニングも入れますと、だいたいそれぐらいではないかと思います。
その中で最初の「トライメスター(妊娠第1期、0週~14週)」で行われるのはやはりNTです。NTと、それからまたアメリカでは母体血清マーカーを行っています。それに加えて、先ほどから話が出ていますセルフリーのDNAの検査(新型出生前診断)を行うという状況だと思います。しかし、これはあくまでもすべてスクリーニングという意味での検査になります。
実際の確定診断ということになると、これはもちろん、保守的な州ともっとリベラルな州ではかなりが違いあります。たとえば私が診療しているニューヨークはかなり州の中でもリベラルと考えられているところですが、そこでも実際に検査を行って、自分の子供がどうなっているかを知りたいと本当に思っている人はそれほど多くはありません。
今まで使っているような古い定義である35歳をカットオフとしてハイリスクと考えますと、その中で実際に染色体異常についての確定検査を受けたいと思う人たちはせいぜい50%を切るぐらいです。すなわち確定診断はCVSあるいは羊水穿刺を行って診断をしてもらうということですが、それでも本当に答えを知りたいという人はそれぐらいです。したがってミシシッピやアラバマのような保守的な州になりますと、これは5%とか10%になると思います。
それからまた、先ほどスクリーニングを受ける人が65%と言いましたが、これも全部おしなべてということではありません。たとえばうちで95%であっても、他の施設では5%かもしれません。そういう状態での推定で物を言っています。
そして同様に、いろいろと医療をどうとらえるかによっても違ってきます。したがって、だいたいベストで推定してみますと、全米でおそらく羊水穿刺が15万件、CVSが3万件ぐらい行われているのではないかと思います。
これは後ほどシンポジウムのときにデータでお示ししたいと思っていますが、以前はCVSは危険な手技であり、羊水穿刺のほうが安全であると考えられていましたが、実際にはそうではないというデータが出ています。したがって、経験のある医師が行った場合にはCVSは十分に安全な手技であることを申し上げておきたいと思います。
それから、日本ではどうであるかわからないのですが、アメリカでは双子の産まれる確率が通常であれば90例に1例です。ところがそれが「IVF(体外受精:In Vitro Fertilization)」などの治療のおかげで30例の出産につき、1例が双胎児となっています。
もちろん昔ほど七つ子、八つ子という数までは、それほどにはなりませんが、やはり多胎児は増えています。そうするとやはりCVSの重要性がより高まるとわれわれは考えています。CVSがなぜ重要かというと、たとえばその中で胎児の数を減らすというかたちでの手技を行うのであれば、20週を超えてからよりも12週で行うほうがより安全だからです。
Drワタガナラ タイにおきましては、出生前スクリーニングというと3つに分かれます。第1が妊娠がわかって病院に来た最初の段階でのスクリーニングです。たとえば妊婦さんの年齢を聞き、それからまた以前にダウン症のお子さんを出産した既往があるか等のスクリーニングを行います。このようなスクリーニングはユニバーサルに行われるべきすべてのスクリーニングの第1段階であると思います。
次の段階が超音波検査です。超音波検査は国で全妊娠期間につき1回だけ政府が償還します。つまり、ただなのです。第1トライメスターに行うNT、それから第2トライメスターに行うアナトミー関係(解剖学的構造)のスキャンで、どちらかを選べば無料となり、それ以外は自己負担となります。
また、通常の民間病院で検査を受ける場合には、どのような検査でも自己負担ですが、検査を受けることができます。
3番目の種類の出生前のテストは、生化学的なテスト、それからNIPTになります。
タイではCVSについては「サラセミア(遺伝性標的赤血球症)」の問題があるので、100%政府が償還しています。実際に25%の人口がこの遺伝子を持っているので、政府が100%償還しており、CVSは100%行われています。
次にダウン症候群のスクリーニングをどうすべきかが考えられています。もしかしたら、サラセミアと同じように将来、ダウン症候群についても政府が負担する検査が必要になるかもしれないと考え、いまリサーチを行っているところです。
生化学的な試験については自己負担になりますし、民間ではどちらにしても自己負担です。
Drプランタズ 私は小児科医でありまして、したがって出産関係はあまりよく情報を持っておりませんが、おそらくフランスの状況はアメリカと同様ではないかと考えます。
司会 よろしいでしょうか。
記者B マーク・エバンス先生にもうお聞きしたいのですが、65%の方が何らかのかたちでテストを受けているということです。そうしますと、「あなたはダウン症候群が赤ちゃんにあるかどうか、知りたいですか」「NTを測るとか、そういう検査を受けたいですか」ということを全員の妊婦さんに聞くのでしょうか。
日本の状況がおわかりにならないと先生は答えにくいと思いますが、日本では国が、ドクターから、検査については話さないというケースが出ているということを説明してあげてください。
Drエバンス アメリカではスタンダードケア、標準治療という言葉があります。ただ、残念ながら、この標準治療という言葉には2つの定義があります。1つは標準治療は必ず提供しなければいけないという定義、2番目は標準治療はそれを受け入れる人に提供すべきものという定義です。
さて、このようなことを考えてスクリーニングを、たとえば医師から提供する場合にはまず危険因子を考えます。たとえばアジアのバックグラウンドの人であれば、αサラセミアであり、またユダヤ系であればテイ=サックス病、アフリカ系であれば鎌状赤血球病、こういった問題があるということで、その特定のスクリーニングを提供することになります。
そして、すべての妊婦さんに対して「染色体異常というリスクはありますよ」ということを言わなければいけないとされています。つまり、これは要件であるとされています。
しかしながら、実際の状況は医師によっても患者さんによっても違います。医師が患者さんとそのことをどれぐらい話し合うか、また、どれぐらいこのことを重点的に話をするかなどのよっても違ってきます。
医師はどちらかというと自分自身を医療過誤の訴訟から守りたいという気持ちがありますので、そういう医師であれば、「アメリカ産婦人科学会(ACOG)」の出しているパンフレットを渡して、これを読んで決めてくださいと言ったりするので終わりということもあり得ます。その場合には患者さんはよく読んで決めるかもしれませんし、どこかに捨ててしまうかもしれません。
ただ、今までのような医師がすべてというような権威主義的な、父権主義的なやり方からはかなり進歩があったと思います。たとえば私がハイスクールのころに母が卵巣癌になって手術を受けました。手術を受ける際に、その手術をした先生は、私の父に対しては「奥さんは卵巣癌ですよ」と告げたにもかかわらず、手術を受ける母親には全く告げませんでした。それは女はこんなことには耐えられないからという考え方があったからです。しかし、そういうことはなくなっていると私は考えたいと思います。
こういうことでお話ししましたが、まず一般的なお答えを申し上げます。一般的な見方を取れば、医師は自分を訴訟から守りたいというような気持ちで、この問題に対して取り組むという姿勢が多いのではないでしょうか。
Drワタガナラ それに付言させていただきたいと思う。NIPTを妊婦さんに提供するか、提供しないかということですが、これはどちらかというとすでに医師の手を離れていることであると考えます。これはあくまでも患者さんの選択です。
まずこのようなNIPTを提供している会社は直接的なマーケティングを広く展開しており、広告も出し、インターネットでもいろいろと公表しています。つまり、患者さんあるいは妊婦さんのほうがNIPTをよくご存じであるということで、昔のように医師がすべてを牛耳るというような時代ではもうなくなっています。
それで、いろいろな戦略がとられ、非常にアグレッシブにNIPTを売り込んでいるというのが現状です。ですから、羊水検査などよりもNIPTだという状況も考えられます。
ただ、私はそれが問題だと考えています。というのも、ダウン症候群はいろいろな胎児異常の中の本当に一部にしかすぎないからです。われわれが真に発見したいのは、それだけではなく、その他のすべての胎児の異常です。ところがNIPTではそれには応えられない。
また、NIPTを行うことはむしろ、それを受ける両親に間違った安心感を与えてしまうことにもなりかねないと思います。というのも、NIPTは絶対ではなく、限られた確率しか示さないからです。そして、たとえダウン症候群がなくても、他の異常もあり得るということで、私はそれが問題だと思っています。
Drエバンス いまワタナガラ先生からありました非常に適切な指摘を聞きまして、付け加えさせていただきたいと思います。
まずこの技術、NIPTというのは非常に高価なテストです。そして、それを受けさせようと医師でない人たちが非常にアグレッシブなマーケティングを行っているのは、本当に問題だと思っています。高いテストであるにもかかわらず、実際には胎児の異常の全体の中のほんの一部しかテストができないのです。
われわれは他の状態を検出したいと思っているわけで、その例が現在、千葉先生が手掛けていらっしゃる胎児治療です。しかし、胎児治療の対象となるのはNIPTで見つけることのできない患者さんです。これらはNIPTで発見されるわけではなく、超音波あるいは生化学的なスクリーニングあるいは分子的なスクリーニングで見つかる状態です。だいたいは超音波の力が強いと思います。
ですから、このようにNIPTのみを商業化して、大きく膨らませることによって、他の重要な疾患などが、あるいは他の問題が矮小化されるということは、やはりこれは非常に大きな問題だとして懸念しています。
アメリカにおいて、NIPTは先ほどの定義でいうと受け入れ可能な検査といわれており、必須の検査ではありません。1年ぐらい前にACOGが「母体胎児医学会(SMFM)」と共同で出した指針によると、NIPTは「ハイリスクの患者さんにオファーすること、提供することは受け入れ可能である」としており、受け入れられるという言葉を使っているところが鍵になると思います。
そして、これはハイリスクであって、その後に続けて、ACOGではまだローリスクの患者さんにNIPTを提供する、あるいはルーチンに提供するところまでは至っていないとも言っています。つまり、後でデータでお示ししたいと思いますが、低リスクにまでそれを行うにはあまりにも高価な検査であるということです。
司会 よろしいでしょうか。
記者C NIPTをめぐっては、日本では生命倫理的な問題が指摘されることが多くて、ダウン症であることがほぼわかれば、その後の羊水検査を経て、中絶につながることがわかってしまう。そういったことが事前にわかるというのは障害者の差別にもつながるのではないか、といったような議論がされることが多いのですが、そういった生命倫理的な議論はNIPT、NIPSをめぐってはどのように考えておられるか。それぞれお聞きしたいと思います。
Drプランタズ これは非常に重要なご質問と思います。確かに以前は出生前診断が優生主義を引き起こす、あるいは優生主義的であると考えられていたことがあります。しかし、これは昔のことでありまして、この問題はもはや存在していないと言っていいと思います。
つまり、現在ではあくまでも出産を選ぶか、選ばないかは個人の意志に任せる。そして自分たちの子供をどのようにしたいかということについては、個人に任せるということで、これはすでに答えは出ている。すなわち優生主義的な考え方ではないというのが答えです。
Drエバンス 私は産科医であり、婦人科医であり、それから医師として遺伝専門医でもあります。遺伝専門医として、決して誰かに指示を与えてはいけないという非常に重要な責務を負っています。つまり、誰かに対して「中絶せよ」あるいは「CVSを受けろ」というようなことは絶対言えないというのが私の立場です。
私ができるのはデータを提供し、オプションを提供することだけです。たとえば診断も治療も、それからその後の可能性についてもデータやオプションを提供することによって、それを聞いた人、患者さんに決めてもらうという立場をとらなければいけません。これが私の責務であり、その提供した情報に従って決断いただいたことに対しては、できる限りのことをしてサポートしていきます。
ただ、このようなやり方から外れる場合が1つだけあります。それは確定的なことを言うためにはもっと情報が必要な場合です。診断確率を上げるためにはもう少し情報を取らなければいけないというような場合には、そういう指示を出すことがあります。しかし、その後で正確な診断なり検査結果が出たときには、あくまでも患者さん、あるいは妊婦さんの決定に任せます。
NIPTもそれと同じです。NIPTは60年代に妊婦さんの年齢を聞いていたのと同じような扱いをしていいと思っています。60年代は「27歳です」と聞いたら「ああ、ローリスクでよかったね」と、「37歳です」と聞いたら、「ハイリスクですよ」と言っていた。それと同じようなものだと思います。
スクリーニングが教えてくれるのはリスクであって、実際の診断ではありません。ある人にとってはリスクが高くなるということを、テストで明確に確認するという目的で行うもので、それを忘れてはいけないと思います。そして、その結果を聞いた後の決断は、あくまでもその聞いた人に任せるということだけしかできないと思います。
もちろんダウン症についても前よりもよくわかってきていますが、しかし、もっと大切なのはそれに付随してダウン症だけではなく、100もの他のわれわれが検出したい疾患が多くあるということです。現在のような社会においては、頭もいい、そして意思もしっかりと持っているような人たちであったとしても、同じ情報を聞いて全く違う決定をするということはよくあります。そして、違う決定をしたとしても、誰もそれが間違っているとは言えない。自らした自主的な判断であれば、その決定を間違っているとは誰も言えないのだと思います。
以前に、この出生前診断は何か異常を検出して、それを全部殺してしまえというようなものであるという主張を聞いたことがありますが、そうではないと思っています。むしろ、出生前診断を行うことによって、より多くの赤ちゃんが産まれるということです。
判断にはさまざまな要素があります。まず第1、ハイリスクであるということは、そのハイリスクということがわかった段階でより良いケアを受けられるということであり、それによって、結果的には「ハイリスクだったですね。でも、お母さん、何も問題はありませんでしたよ」というグッドニュースを受ける母親のほうがずっと多いということです。
第2は、たとえ実際に問題がわかったとしても、その妊婦さんの決断として中断に至るかどうかというのは、今までのデータ、私の経験では50:50です。つまり、50名の方は中絶せずに妊娠を続けます。もちろんニューヨークとミシガンの、たとえば先ほど申し上げた保守州とリベラル州の違いはあるでしょうけれども、だいたいそういうことです。
そして、より重篤な疾患であるという場合には、もちろん十分なカウンセリングを行った結果、中絶に至るということもその決断としてひとつ考えられます。
3番目は、たとえば実際に何か疾患を持って生まれてきたお子さんもあるかもしれません。しかし、そうだとしてもその子供を持ったご両親は、その子供を世界の誰とも替えたくないと思うぐらい愛しているということもあり得ます。そういうことも考えなくてはいけません。それからまた、実際に子供を愛して産みたいと思っても、それができない。これは経済的なことだけではなくて、たとえばそういう特殊なニーズを持ったお子さんを持つ場合にいろいろなことが考えられるので、それで産まないという決断をする場合もあると思います。
4番目は、先ほど申し上げたとおり、千葉先生も努力されているとおり、いろいろな出生前の治療が現在では可能になっています。現在はそのような疾患は数が限られていますが、今後はそれが広がっていく。そのために必要な検査もあるであろうということです。
Drワタガナラ 私も付言させていただきたいと思います。実際にいまお聞きになりたかったのは、これは人を差別するというよりも人になる前の段階での差別につながるのではないかというご質問ではないかと思います。
もちろんわれわれ、ここにいる人間、この部屋にいる人間はノーマルです。しかし、そのような人ではなく、子宮内にある人はどうでしょうかということではないかと思います。子宮内にある胎児は人ではないのでしょうか。これもやはり差別につながると思います。「この子が賢く生まれないかもしれないから、こんな子は要らない」というような差別をするのは間違っていると思います。
今日もわれわれは東京の特殊教育施設の見学に行かせていただいたのですが、そこでもいろいろな特殊なニーズを持つ子供たちがいるということを見ました。また、日本の社会はそれらの子供たちを非常によく受け入れていらっしゃる。特別なニーズを持つ子供たちを受け入れていらっしゃる社会だと思いました。
しかしながら、それでも私はやはり胎児にも権利があると思っています。したがって、胎児も権利を持ち、それからまた、母親としては情報を受ける権利があると思っています。
文化によって違いはあるというのは理解しています。たとえば私がアジアの各国に行きますと、仏教徒の国であるとすべて神の下されたものは受け入れなくてはいけない。どのような子供であっても受け入れなくてはいけない。そういう考え方があるところもあり、一方では、シンガポールなどでは一人っ子政策なので、1人しか子供が持てないからには完全な子供を求めるというように違うわけです。
しかし、胎児が人かどうかということを考えた場合、われわれだって完全ではありません。たとえば胎児の場合に塩基配列の欠失があったら中絶する。それでは私はどうでしょうか。私だって調べてみたら、それからエバンスだって調べてみたら、血液を採ってみたら、塩基配列の欠失が見つかるかもしれません。だからといって、私が殺されるわけではないということです。
すなわちNIPTもそれと同じように考えています。だからこそ、NIPTがどれぐらい行われているかということを知っているだけでは十分ではないということを皆さんもおわかりだと思います。アメリカでもタイでも文化が違い、状況も違います。したがって、その文化的な違い、あるいは状況を理解することなしには、誰も答えられないのではないかと思います。つまり、質問に対する答えはイエスでもノーでもありません。
司会 よろしいでしょうか。時間がだいぶ過ぎて、一般の方が入場を待たれていますので、これでプレスカンファレンスを終了させていただきます。よろしいでしょうか。
どうもありがとうございました。
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